水を支配する者国を支配する
アンコールワットの中心部の十字回廊には4つの池があります。5つ塔で囲まれた中央祠堂にも同様に聖地が四方に配置されています。しかしこれらの池は単なる王が水浴びをする施設ではなく、王国の農業を支える治水技術を示す宗教施設でもあります。農業における貯水施設は必要な水源を確保する池と、それを再分配する水路から構成されています。この聖地は水が四方に広がることによって乾季に必要な水源を確保可能なことを象徴しています。つまり神の住む楽園にある聖池はクメールの灌漑装置を意味しています。それが四方に配置されることは耕地にまんべんなく水を供給できる技術のすばらしさを誇示しているのであります。このようにあらゆる形で宗教的な宇宙観を具現化したのがアンコールワットです。十字回廊にある4つ聖池は地上界の聖池であり、中央祠堂の4つの聖池は天空の聖池を表しています。
このような宗教的な意味合いに加え、技術的な理由もありました。アンコールワットを含めたクメール建築では、回廊を組み合わせる以上には、大きな内部空間を造る方法がなく、必然的に屋根を架けない池の空間を造る必要があったというわけであります。また地上より高い位置に水をたたえた池を造ることは、現代の技術でも容易ではありません。
技術的な制約を超えて天空楽園を実現するため様々な工夫が、クメール建築の秘密である同時魅力でもあります。